みなさん、こんにちは。
埼玉県ふじみ野市のITサポートSORAの関口です。
最近、Outlookに関するお問い合わせが増えています。
理由は、マイクロソフトがOutlook(New)を推進するために、従来のOutlook(Classic)を表示させないようにしているためです。
Outlook(New)は従来のメールシステムとは異なる動きをしています。
この「違い」を理解しておかないと、今後のメール関連のトラブルも増えてくると思います。
そこで、今日はOutlook(New)の仕組みを理解しながら、これまでの違いについて解説していきたいと思います。
Outlook(New)とは
Outlook(New)とは、マイクロソフトの新しいメールソフトです。
これまでマイクロソフトのメールソフトには、従来のOutlookとWindowsメールの2種類がありました。
Outlook(New)のリリースに伴い、従来のOutlookはOutlook(Classic)と呼ばれるようになり、Windowsメールは2024年12月末にOutlook(New)へ統合されました。
現時点(2025年1月)では、Outlook(Classic)の終了時期は発表されていませんが、新しいWindowsPCにOutlook(Classic)がインストールされていないことなどから、マイクロソフトはOutlook(New)への移行を推進していると考えられます。
Outlook(New)では、メールシステムの仕様が大きく変更されています。
この変更内容を理解せずにOutlook(New)を使用することは、将来的な問題につながる可能性があります。
Outlook(New)の仕様を理解するために、まずはメールシステム(メールが届く仕組み)の基本について解説していきます。
メールシステムの基本
SNSやチャットツールが発達した現代でも、メールは多くの個人や企業で広く活用されています。
では、メールはどのような仕組みで届くのでしょうか。
基本的な流れは以下の通りです。
- Aさんがメールを送信(Outlook・Webメール)
- Aさんのメールサーバから、Bさんのメールサーバへメールを配送
- Bさんのメールサーバのメールボックスに保存
- Bさんがパソコンでメールを受信・表示(Outlook・Webメール)
これがメールシステムの基本的な仕組みです。この仕組みに基づき、メールの受信には主に4つの方式があります。
- POP方式
- IMAP方式
- Exchange方式
- Webメール方式
POP方式
POPとは Post Office Protocol の略です。
メール普及の初期から標準的に使われていたメール受信方式です。
メールサーバに届いたメールを、Outlookなどのソフトを使ってパソコンにダウンロードします。
メールデータはパソコンのローカルに保存され、Outlookの初期設定では受信から14日後にメールサーバから自動的に削除されます。
クライアント(Outlook)はメールサーバにPOP(ポート110・995)で直接アクセスします。
POPのメリット
- 複数台のPCでメール受信可能
- メールサーバ側の保存容量を抑えられる
POPのデメリット
- 送信メールの同期ができない
- パソコンが故障するとメールデータが失われる
- 古いプロトコルとなりつつある
IMAP方式
IMAPとはInternet Message Access Protocolの略で、現在のメール受信の主流方式です。
メールはサーバー上に保存され、パソコンやスマホと常に同期する仕組みです。
メールサーバー内のデータを直接表示するため、どの端末からでも同じメールを閲覧できます。
クライアント(Outlook)はメールサーバーにIMAP(ポート145・993)で直接アクセスします。
IMAPのメリット
- スマホ・パソコンで送受信メールを同期して表示できる
- パソコンが故障してもメールデータは安全(ただしサーバー障害は除く)
IMAPのデメリット
- メールサーバーに十分な保存容量が必要
- サーバ内のメール量が多いと初期同期に時間がかかる(Outlook使用時)
- インターネット接続がないと過去メールを閲覧できない(設定による)
Webメール方式(Gmail方式)
Gmailが登場したころから普及している方式です。
従来のPOPやIMAPではOutlookなどのメールソフトが必要でしたが、Webメール方式は、Webブラウザでメールを直接表示する仕組みです。
専用のメールソフトをインストールする必要がありません。
クライアント(ブラウザ)はWebサーバにSSL(443)で接続し、バックグラウンドでメールサーバとデータをやり取りします。
Webメール方式のメリット
- Webブラウザからメール送受信可能
- アドレス帳・署名・フィルタなどの設定を同期できる
- パソコンにメールソフトが不要
Webメール方式のデメリット
- インターネット接続がないとメールが確認できない
- メールサーバ側にデータが蓄積される
Exchange方式
Microsoft社が開発した独自のメール方式です。
outlook.jpドメインやMicrosoft365を契約している場合に利用できます。
マイクロソフト製品のため、Outlookとの相性が非常に優れています。
基本的な仕組みはIMAPとWeb方式の掛け合わせで、メールデータはサーバー側に保存されます。
Microsoft365では、1アカウントあたり50GBのメール保存容量が提供されます。
クライアント(Outlook)はExchangeサーバーにSSL(443)で直接接続します。
Exchange方式のメリット
- OutlookやMicrosoft365と完全に連携
- Microsoft365では管理者による一括設定が可能
- アドレス帳・署名・フィルタなどすべての設定を同期可能
Exchange方式のデメリット
- Microsoft365の有料サブスクリプションが必要
- Outlook(New)では広告が表示される
- メールサーバー上にデータが蓄積される
Outlook(New)のメールシステム仕様
ここからが今回のブログの本題です。
Outlook(New)では、Outlook(Classic)と同様に、POP・IMAP・Exchange方式でメール設定が可能です。
しかし、POP・IMAPについては、Outlook(New)のメールシステムは大きく変更されています。
マイクロソフトクラウドのサイトでは以下のように説明されています。
Outlook で Microsoft Cloud にアカウントを同期する
アカウントを Microsoft Cloud に同期すると、メール プロバイダーと Microsoft データ センターの間でメール、予定表、連絡先のコピーが同期されます。 Microsoft Cloud にメールボックス データを追加すると、Microsoft アカウントと同様に、Outlook クライアントの新機能 (Windows 用の新しい Outlook、Outlook for iOS、Outlook for Android、Outlook.com、またはOutlook for Mac) を Microsoft 以外のアカウントで使用できます。
上記の説明を一言でまとめると、「Outlook(New)のメールは、すべてマイクロソフトクラウドを経由する」ということです。
Outlook(New)の設定時にマイクロソフトクラウドとの同期が表示され、この同期に同意しないとOutlook(New)は使用できません。
この仕組みを理解しておかないと今後のメール運用に影響を及ぼす可能性があるため、Outlook(New)でのPOPやIMAPの通信の動きについて具体的に説明していきます。
Outlook(New)でのPOP通信の動き
従来のPOPでは、メールサーバが受信したメールをOutlookが直接POP(110・995)で受信していました。
Outlook(New)では、POPでもマイクロソフトクラウドにメールが保存されます。
Outlook(New)のPOP初期設定時は、Outlook(New)自体にアカウントを設定するのではなく、マイクロソフトクラウド上にアカウントを設定します。
Outlook(New)でPOP受信は以下のような接続をします。
- BさんのOutlook(New)はマイクロソフトクラウドサーバに接続。
- マイクロソフトクラウドサーバがBさんのメールサーバにPOP通信しメールを受信する。
- マイクロソフトクラウドサーバが受信したメールデータがOutlook(New)に表示される。
Outlook(New)の通信内容を確認(キャプチャ)した結果、Outlook(New)はマイクロソフトクラウド内のサーバとのみ通信しています。
これまでのPOPでは、メールデータはパソコン内にすべて保存されましたが、Outlook(New)ではマイクロソフトクラウドが中継しているため、キャッシュのみが保存されているようです。
Outlook(New)でのIMAP通信の動き
従来のIMAPでは、メールサーバが受信したメールをOutlookが直接メールサーバにIMAP(145・993)で同期を行っていました。
Outlook(New)では、IMAPでもマイクロソフトクラウドにメールが保存されます。
Outlook(New)のIMAP初期設定時は、Outlook(New)自体ではなく、マイクロソフトクラウド上にアカウントを設定します。
Outlook(New)でIMAP設定すると以下のような接続をします。
- BさんのOutlook(New)はマイクロソフトクラウドサーバに接続。
- マイクロソフトクラウドサーバがメールサーバにIMAP通信しメールを同期する。
- マイクロソフトクラウドサーバが同期したメールデータがOutlook(New)に表示される。
Outlook(New)の通信内容を確認(キャプチャ)した結果、Outlook(New)はマイクロソフトクラウド内のサーバとのみ通信しています。
例えば、パソコンではOutlook(New)を使用し、スマホではiPhoneの標準メールでIMAP設定を行った場合、Outlook(New)とiPhoneでは参照先メールサーバが異なることになります。このタイムラグが懸念されます。
Outlook(New)のメリット・デメリット
従来のメールシステムでは、パソコンやスマホのメールアプリが直接メールサーバと通信していましたが、Outlook(New)では、すべての通信がマイクロソフトクラウドを経由する仕組みに変更されています。
この仕様のメリットとデメリットについて考えてみます。
Outlook(New)のメリット
この新しい方式には、次のようなメリットがあります:
- マイクロソフトクラウドで複数のメール送受信設定を一元化し、メールデータ・アドレス帳・署名などを一括管理できる
- パソコンが故障してもメールデータが失われない
- 追加のデバイスでのOutlook設定が簡単になる
- マイクロソフトクラウドにアクセスするだけで、メール設定が完了する。
など。
Outlook(New)のデメリット
Outlook(New)には、以下のようなデメリットが考えられます。
- メールデータがパソコンに保存されない(過去のメールが蓄積されない・要検証)
- Outlook(Classic)の過去メール(PST)が移行できない(要検証)
- メールサーバからメールが削除されない(要検証)
- 障害時の問題切り分けが複雑になる
- Outlook(New)と別のメールソフトを使用した場合、タイムラグが生じる可能性がある(要検証)
- マイクロソフトクラウドでのメールデータの取り扱いについて、公式な詳細情報が少なく、データ管理の透明性に懸念がある
- Outlook(New)でGmail送受信が不安定になる(毎回Googleログインが表示される)
- インターネット接続がないとOutlook(New)の動作が不安定になる※
※実際に、インターネット接続を切断した状態でOutlook(New)を起動すると、エラー画面が表示されたり、起動画面が繰り返し表示されたりする現象が確認できました。
これは、Outlook(New)が起動時にDNSでのoutlook.office.comの名前解決を必要とするため、その通信が確立できないとアプリの動作が不安定になるものと考えられます。
さらに、Outlook(New)では広告が表示される仕様となっています。メールデータに基づいて広告を表示する仕組みが導入される可能性も否定できません。
「Outlook(New)に潜むリスク」
Outlook(New)の新しい仕組みでメールシステムを利用すること自体は有用です。
ただし、重大な問題点として、マイクロソフトクラウド経由での通信という仕組みが利用者に十分説明されていないことが挙げられます。
Outlook(New)の利用には、マイクロソフトクラウドの利用同意が必須となっています。
さらに、最近のWindowsパソコンの初期設定ではOutlook(Classic)が利用できない状況のため、ユーザーは実質的にOutlook(New)を選ばざるを得ない状況に置かれています。
このような形で利用者を増やしていった場合、将来マイクロソフトクラウドで障害が発生した際、多くのユーザーが「なぜメールの送受信ができないのか」という事態に直面することになるでしょう。
このように、ユーザーが認識しないまま情報が集中管理されている状況は、深刻なリスクをはらんでいます。
まとめ
Outlook(New)やOneDriveの仕様を見ていると、マイクロソフトはユーザーのデータを囲い込もうとしている傾向が見られます。
ユーザーのデータを自社のプラットフォームに固定することで、新しいOSへの移行を困難にし、データ容量の増加に伴うストレージ料金をサブスクリプション形式で課金しやすくなります。
今回の検証では、マイクロソフトクラウド内でのメールデータの保持方法が明確になりませんでした。
もし、クラウド内にメールデータを蓄積する仕様だとすれば、将来的にこのサービスも有料化される可能性があります。
パソコン内のデータやメールデータの所有権は、果たして誰にあるのでしょうか。
マイクロソフトの最近の方針からは、ユーザーデータの囲い込み戦略がより一層強化されているように見受けられます。
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